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大阪地方裁判所 昭和56年(行ウ)38号 判決

大阪府堺市熊野町東二丁一一番地

原告

堺商事株式会社

右代表者代表取締役

池田潤一

右訴訟代理人弁護士

藤平芳雄

大阪府堺市南瓦町二番二〇号

被告

堺税務署長

内堀昭二郎

右指定代理人

饒平名正也

松本悦夫

勝間甚之烝

木下昭夫

吉田真明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四六年八月三一日付で原告の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度(以下第二期という)の法人税についてした再更正処分及び重加算税の賦課決定処分(いずれも裁決により一部取消された後のもの)を取消す。

2  被告が昭和四六年八月三一日付で原告の昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度(以下第三期という)の法人税についてした更正処分及び重加算税の賦課決定処分(いずれも裁決により一部取消された後のもの)を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  更正処分等の経緯

(一) 原告は、第二期の法人税について別表一の(1)の確定申告欄記載のとおり申告したところ、被告は、同表の更正・決定欄記載のとおり更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。その後、原告は、同表の修正申告欄記載のとおり修正申告したが、被告は、同表の再更正・決定欄記載のとおり再更正処分及び重加算税の賦課決手処分をした。

(二) 原告は、第三期の法人税について別表二の(2)の確定申告欄及び修正申告欄記載のとおり申告及び修正申告したところ、被告は、同表の更正・決定欄記載のとおり更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

(三) 原告は、右各表の異議申告欄記載のとおり被告に異議申立したが、被告は、異議申立後三か月を経過しても異議決定をしなかったので、原告は、同表の審査請求欄記載のとおり国税不服審判所長に審査請求したところ、同所長は、同表の裁決欄記載のとおり原処分を一部取消す旨の裁決をした。

2  しかし、被告のした第二期の再更正処分及び第三期の更正処分(但しいずれも裁決により一部取消された後のもの、以下本件各更正処分という)のうち右各修正申告額を超える部分は原告の所得を過大に認定した違法があり、したがって、本件各更正処分を前提としてなされた重加算税の各賦課決定処分(以下本件各決定処分という)も違法である。

3  よって、原告は被告に対し、本件各更正処分及び本件各決定処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1は認め、同2は争う。

三  被告の主張

1  原告の第二期及び第三期の所得金額は、第二期分二三五〇万五九一一円、第三期分二六一三万〇六〇三円であるから、本件各更正処分及びこれを前提とする本件各決定処分に違法はない。

2  原告の右各所得金額の計算内訳は別表二の(1)(2)記載のとおりである。

また、右各表中の簿外売上金額の算定根拠は別表三記載のとおりであり、そのうち松岡商店及びホステスからの簿外ビールの仕入本数は別表四記載のとおりである。

四  被告の主張に対する認品

1  被告の主張1は争う。

2  同2のうち、第二期(別表二の(1))について、確定申告所得金額、(加算)欄中の使途不明金・貸倒引当金の損金不算入額・価格変動準備金の損金不算入額、(減算)欄中の簿外経費額・未納事業税額は認め、その余は争い、第三期(別表二の(2))について、確定申告所得金額、(加算)欄中の使途不明金・債務不確定未払費用額・価格変動準備金損金不算入額、((減算)欄中の簿外経費額(ただし旅費交通費を除く)・貸倒引当金戻入益金不算入額・価格変動準備金戻入益金不算入額・申告別口利益額は認め、その余は争う。

五  原告の反論

1  原告の第二期及び第三期の所得金額は、第二期分九四二万〇二一八円、第三期分一二三九万五四五九円である。

2  原告の右各所得金額の計算内訳は別表五の(1)(2)の原告の真実の主張欄記載のとおりである。

被告は別表三において簿外売上金額の算定根拠を主張するが、原告がホステスからビールを仕入れたことは全くなく、松岡商店からの簿外ビールの仕入本数は第二期が一万〇三二〇本、第三期が八〇四〇本である。また、ビール一本当りの売上単価は第二期が一一五二円、第三期が一〇四五円である。

さらに、ホステス指名料第二期分二一七万八〇〇〇円、第三期分一五一万二八六〇円はいずれも簿外経費に算入されるべきである。

なお、右の各所得金額が修正申告における所得金額と異なるのは、原告が修正申告の際に簿外売上金額等の算定を誤り、過大に修正申告したためである。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからここに引用する。

理由

一  請求の原因1の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各更正処分及び本件各決定処分の違法の有無について判断する。

1  原告の第二期の所得金額について、確定申告所得金額に加算されるべき使途不明金・貸倒引当金の損金不算入額・価格変動準備金の損金不算入額、減算されるべき簿外経費額・未納事業税額が別表二の(1)の各該当金額欄記載のとおりであること、第三期の所得金額について、確定申告所得金額に加算されるべき使途不明金・債務不確定未払費用額・価格変動準備金損金不算入額、減算されるべき簿外経費額(ただし、旅費交通費を除く)・貸倒引当金戻入益金不算入額・価格変動準備金戻入金不算入額・申告別口利益額が別表二の(2)の各該当金額欄記載のとおりであること、以上の事実は当事者間に争いがない。

2  簿外売上金額

(一)  ホステスからの簿外ビールの仕入れについて

(1) 被告は簿外ビールのホステスからの仕入分を第二期及び第三期各七八〇〇本と主張し、原告はこれを否認する。

(2) まず、被告の主張に沿うものとして、

〈1〉 原告の庶務部長の肩書を有する伊部正は、同人作成にかかる昭和四五年八月一五日付確認書(成立に争いのない乙第二号証、なお本件においては甲・乙号各証とも全部成立に争いがないから、以下書証番号のみを示す)において、第二期及び第三期について、切替指名などの場合に栓を抜かずに残されたビールを担当ホステスから一本一二〇円で買上げていたこと買上げ本数は月によって異なるが、多い月で日に二四本、少ない月で日に四本程度であり、第二期については年間四〇八〇本、第三期については年間四三八〇本であったと記載しているほか、昭和四五年四月二〇日付質問てん末書(乙第六号証)において、客に売ったビールがそのまま残った場合にホステスからの買取りの要求があれば伊部が現金で支払うこと、本数は一日一五本程度で一か月四五〇本ないし五〇〇本であったこと(同号証添付の別表によると第二期六一八〇本、第三期六三〇八本)を供述し、昭和四六年四月二七日付(同第七号証)、同年五月一日付(同第八号証)、同月一八日付(同第九号証)、同月二一日付(同第三号証)、同月二二日付(同第一〇号証)の各検察官調書において、簿外ビールの仕入れにはホステスからの買上げ分が含まれていたこと、買上げ価格は一本一二〇円であり、買上げのための資金は伊部が原告代表者池田から毎月五〇〇〇円くらい預かって持っていたこと、ホステスから買上げた分については伊部が翌日池田に報告し、支払った分の代金の補充を受けていたこと、ホステスからの仕入れは伊部が思いついて池田に相談したところ、酒屋からの仕入分がその分だけ少なくてすむからそうしてくれと池田に言われて始め、昭和四四年一二月に査察を受けるまで続けたこと、買上げ本数は多い日で三〇本くらい、少ない日でも一〇本くらいはあり、第二期及び第三期を通じ一日平均二〇本くらい(一二月はクリスマス等の影響で一日四〇本くらい)であったこと、質問てん末書(前掲乙第六号証)においてなした本数に関する供述は、売上げ除外金額を先に出し、それに仕入本数をあわせるようにしたもので、除外金額・買上げ本数も共に少なく述べたものであることを供述している(以上をあわせて以下単に伊部調書という)。

〈2〉 原告代表者池田潤一は、昭和四四年一二月二三日付質問てん末書(乙第一三号証)、昭和四六年五月二二日付検察官調書(同第五号証)において、簿外ビールをホステスから仕入れていたこと、買上げは毎日行なわれていたこと、ホステスからの買上げは「ミス堺」だけで行なわれていたことを供述している(以下単に池田調書という。)

これに反し、

〈1〉 伊部正は、原告外三名に対する国税犯則事件の第五回公判(甲第五号証)、第六回公判(同第六号証)並びに当裁判所の証人尋問において、ホステスからビールを買上げた事実は全くなかったこと、昭和四四年二月ころ原告会社に対する税務(特別)調査が行なわれた際に原告会社の藤川常務からホステス買上げ分ということで申立てたという話を聞いていたので査察官から簿外ビールの仕入れについて質問されたのに対し、上田商店・山田商店からの簿外仕入れが当局に判明していない段階で、売上除外金額とビールの仕入本数をあわせるため思いつきでホステスから買上げたと述べたものであること、上田商店・山田商店からの簿外仕入れが判明した後は、供述の訂正を要するところ、ホステスからの仕入れが簿外の経費として計上されるとの気持ちも働き、言いそびれたまま経過したこと、ホステスから仕入れたとする本数については、査察の段階では除外金額の点に重点があり、売上除外金額の約一五パーセントが簿外ビールの仕入金額に相当すると考えていたが、松岡商店からの簿外仕入本数だけでは一五パーセントに満たないため、ビールの本数を右の一五パーセントになるようホステス仕入れという虚偽の項目に適当に振り分けた結果であること、その後検察官の取調べ段階では調べの重点が簿外ビールの本数に置かれるようになり、取調べでは真実の供述を受付けてもらえず追及的な質問を受け、机等を叩くなどして嘘を言うななどと言われたこともあり、勾留による精神的打撃もあって、本数もさらに増加させる結果となった旨供述し、また、同人作成の簿外仕入調べ一覧表(甲第二号証)にもホステスからの仕入れはなかった旨記載している(以上をあわせて以下単に伊部証言という)。

〈2〉 原告代表者池田潤一は、前記国税犯則事件の第三〇回公判(甲第一三号証)並びに当裁判所の原告代表者本人尋問において、ホステスからの仕入れはなかったこと、原告会社が税務調査を受けた際に、松岡商店等の仕入先の摘発を防ぐ目的でホステスからの仕入れということで計上したことがあったこと、このことが原因で伊部が査察の際にホステスからの仕入れということを簡単に述べたと思われること、国税局の査察及び検察官の取調べの段階では真実の供述をなしうる零囲気でなく、ホステス等について裏付けの調査をすれば真偽が自然にわかることになると思い、伊部の供述に同調したものであることを供述している(以下単に池田供述という)。

〈3〉 前記犯則事件で証人尋問をされた坂内保子、蛭田敏子、東はついは、第二五回公判(甲第四号証の二、四、六)において、伊部がホステスからビールを買上げたことはない旨それぞれ証言している。

(3) そこで、伊部調書の信用性について検討するに、仕入れ数量その他の点で供述内容に変遷や食い違いはあるものの、簿外ビールをホステスから仕入れていたこと自体については一貫してこれを認める供述をしており、しかもその供述内容は買上げ方法、買上げ価格等の諸点について具体性が認められるところ、前掲乙第三号証、第六号証、第一〇号証、証人伊部正の証言((一部)並びに弁論の全趣旨によると、伊部は昭和三九年六月キャバレー業を営む「ミス堺」(昭和四一年一一月法人となり原告会社が設立された)に庶務部長として就職し、昭和四三年一〇月から系列会社である布施観光商事株式会社(以下、布施観光という)でも勤務するようになったが、その後も原告会社へは三日に一回程度の割合で出勤していたこと、伊部が布施観光の勤務を始める前の原告会社における営業責任者は藤川常務であったところ、伊部は同常務を補助する立場で営業部長と共に業務に関与していたこと、「ミス堺」のホステスの数は第二期・第三期の当時約七〇人であり、営業時間を通して約七〇人が途中で交替することなく稼働していたこと、また、ボーイは一二、三人くらいいたこと、客席は約二〇〇席で、客は一日二〇〇人程度で、更に一人の客が複数のホステスを指名することも多く、また、客の多い一二月には一人の客が五回ほど来店したようにする切替える方策がとられ、その都度ビールの追加注文が行なわれていたこと、「ホステスからの買上げ」ということ自体は収税官吏等の調べに際して伊部が自らすすんで供述したもので、取調べ官等の追及の結果としてそのような供述がなされたものではないこと、以上の事実が認められ(証人伊部正の証言のうち右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない)、これらの事実をあわせ考えると、伊部調書(その最終結果は乙第三号証)は信用することができ、これにより認められるホステスからの買上げが一日平均二〇本(一二月は平均四〇本)という数量の点も、店舗の大きさ、客数、営業成績を上げるための切替制度等によるビール注文数の増加を考えると、特に不自然なところはない。

池田調書について検討すると、前掲乙第一三号証、原告代表者本人尋問の結果(一部)並びに弁論の全趣旨によると、第二期・第三期当時において、池田は、原告会社、布施観光、新興観光商事株式会社(以下、新興観光という)の三法人の業務全般を統轄する実質的な経営者であったこと、池田は主に新興観光の経営に携わっていたが、右三法人の昭和四一年ないし昭和四三年当時の法人税の確定申告に際し、〈1〉ホステスの事業税などを簿外で支払をするため、〈2〉公表帳簿に計上できない費用捻出のため、〈3〉公表できる経費の記載洩れを補うため、〈4〉将来予定している事業開始資金の一部を捻出するためなどの目的で虚偽の内容の申告書を作成して法人税のほ脱を図り、その帳簿上の操作の相談、伝票等の廃棄等に実質的に関与していたこと、以上の事実が認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない)、これらの事実をあわせ考えると、池田調書も任意の供述によるもので措信できるものというべきである。

(4) 伊部証言において、ホステスからの仕入れということは上田商店・山田商店からの簿外仕入分の判明を防ぐために虚偽の内容を述べたものであるとする点は、前掲乙第六号証及び同第四号証に添付の各別表にみるごとく、ホステスから仕入れたとするビールの本数が上田商店・山田商店からの仕入分をはるかに上回っていることからして措信できず、上田商店・山田商店からの仕入れが収税官吏等に判明した後は供述を訂正すべきところ言いそびれたまま経過したとする点も、簿外で仕入れたビールの本数が供述中で次第に増加していることからしてにわかに首肯しがたい。また、ホステス仕入分は売上除外金額の一五パーセントが簿外ビールの仕入金額に相当するという前提で仕入れを適当に振り分けた結果にすぎないとする点は、前掲乙第七八号証によると、検察官は、その取調べの比較的初期の段階において、伊部が右の比率を一五パーセント程度とする根拠を明らかにするよう求め、むしろ比率は約一〇パーセントではないのかと伊部に質問していることが認められるのであり、この時点で伊部が前提としていたと考えられる売上除外金額の概要が正しいものであるとすれば、ホステスからの仕入分を簿外仕入れの計算から除外する方向に供述が進むべきものと考えられるのにそのような形跡が認められない(ホステス仕入分の本数は増加している)ことからして措信できない。なお、伊部は検察官から机を叩くなどされ、追及的な質問を受けたともいうが、乙第一二号証及び証人伊部正の供述によれば、伊部は昭和四六年五月一七日逮捕されたが、勾留請求が却下され、これに対する準抗告も棄却された結果、身柄の拘束は三日間であったこと、したがって乙第九号証を除くその余の検察官調書(同第三号証、第七、八号証、第一〇号証)はいずれも身柄不拘束(在宅)のままの取調べによって作成されたものであること、以上の事実が認められるから、その取調状況及び調書の内容をあわせ考えると、ただちに伊部調書の任意性に疑いがあるものということはできない。

そうすると、伊部証言に同調する池田供述についても右同様の理由で措信しがたく(池田調書についてその任意性に疑いのあることをうかがわせるに足りる証拠もない)、また、坂内保子、蛭田敏子、東はついの前記各証言は、伊部証言及び池田供述を支え、原告の主張に沿うものではあるが、前掲甲第四号証の二、四、六によると、坂内保子、蛭田敏子はホステスとして東はついは賄婦として、いずれも「ミス堺」が昭和三九年一一月営業を始めた当初から継続して勤務し、右各供述時においても現に原告会社に雇用されていたことが認められるから、原告と利害関係を有する者の供述として全面的にこれを信用することができない。

(5) 以上の次第で、伊部調書及び池田調書を採用し、その最終結果としてまとめられた乙第三号証によれば、原告はホステスから簿外でビールを仕入れ、その数量は別表四記載のとおり第二第三期とも各七八〇〇本、単価は一本一二〇円であることが認められる。

(二)  松岡商店からの簿外ビールの仕入れについて

(1) 被告は簿外ビールの松岡商店からの仕入分を第二期一万二二四〇本、第三期一万三五六〇本と主張するのに対し、原告は第二期一万〇三二〇本、第三期八〇四〇本と主張する。

(2) そこで検討するに、乙第二号証、第四号証、第一一号証によると、原告は松岡商店から簿外でビールを仕入れていたが、その数量は被告主張のとおり第二期一万二二四〇本、第三期一万三五六〇本(その内訳は別表四記載のとおり)であることが認められる。

(3) もっとも、原告の右主張に沿うものとして、甲第二号証、第一〇ないし第一四号証、原告代表者本人尋問において、松岡商店の代表者松岡酵一が国税局に提出した報告書(乙第一一号証)は、松岡商店が保管していた現金出納帳に基づくものではあるが、現金出納帳には売上先の記載がない関係から、松岡酵一の不確かな記憶に従い、数量については国税局担当官の示唆を受けながら作成されたものであって、実際の仕入本数よりも数量が多く記載されているものもあるのではないかとの懸念もあること、伊部正が作成した確認書(乙第二号証)のうち松岡商店に関する部分は、右の報告書をひき写したものであること、収税官吏及び検察官の取調べの結果まとめられた原告会社、布施観光、新興観光の三法人の簿外仕入れビールの数量(甲第一四号証参照)と松岡商店の現金出納帳をあらためて対比してみると、三法人が仕入れたとされる日の仕入金額の合計が現金出納帳の該当日の売上金額を上回る場合や、現金出納帳の売上金額が原告会社の仕入分とされている金額を上回る場合であっても、その差額が僅少である場合があり(その明細は甲第一四号証記載のとおり)、前者は明らかに矛盾しており、後者も原告会社と松岡商店との取引きの態様(取引量の単位等)からみて不合理であるとみられる面がありいずれも原告会社の仕入れ分から除外すべきである(除外を要する部分の明細は甲第二号証記載のとおり)ことが指摘されている。

しかし、甲第一〇ないし一二号証、原告代表者本人尋問の結果によると、右の報告書(乙第一一号証)は国税局のみならず原告会社代表者池田潤一の依頼もあって松岡酵一が作成したもので、任意性については問題がないこと、報告書の作成は取引数量の大きい布施観光についてまず行なわれ、次いで原告会社、新興観光の順に作成されたこと、報告書においては三法人の一回分の取引単位は布施観光が五〇ないし六〇ケース、原告会社が二〇ないし三〇ケース(但し昭和四三年一二月二七日分の一〇ケースを除く)、新興観光(ナイト)が一〇ないし一五ケースというように当時の取引量に応じて、明確に区分されてなされたこと、以上の事実が認められ、右事実によると、報告書の記載内容が原告会社分についてただちに不正確であるとはいえないうえ、現金出納帳上の特定の取引分が原告会社とそれ以外の二法人とに重複して報告書に記載されている可能性も考えがたい。また、現金出納帳との対比を問題とする点については甲第二号証及び同第一四号証に記載されている数量はいずれも現金出納帳から転記されたとするものではあるが、現金出納帳の提出がないから、その記載自体と対照することができないうえ、原告会社と松岡商店との取引態様を具体的に裏付ける証拠もないから、甲第二号証の除外を要する部分のビールの取引が存在しないとまでいいきることはできない。なお、仮に現金出納帳との対比によって原告代表者らのいう事情があるとしても、それは三法人中原告会社のみの仕入本数にただちに矛盾があるということになるものでもない。

以上の次第であるから、原告の右主張は採用することができない。

(三)  上田商店・山田商店からの簿外ビールの仕入れについて

乙第二号証、第四号証並びに弁論の全趣旨によると、原告は上田商店及び山田商店からも簿外でビールを仕入れ、その数量は、上田商店につき第二期七二〇本、第三期二四四〇本、山田商店につき第二期二四〇本であることが認められる(なお、甲第二号証によると山田商店からの仕入分二四〇本が昭和四三年八月分に計上されているがその理由は明らかでなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない)。

(四)  店内交際用等に供したビールについて

甲第二号証、乙第四号証並びに弁論の全趣旨によると、原告が右(一)ないし(三)により仕入れたビールのうち、店内交際用等に供したため簿外売上金額算定の基礎となるビールの本数から除外されるべきビールは、第二期一九五〇本(店内交際用)、第三期三〇五〇本(店内交際用一九五〇本、その他に使用されたもの一一〇〇本)であることが認められる。

(五)  簿外ビール一本当りの売上単価について

(1) 被告は簿外ビール一本当りの売上単価を第二期一二二四円、第三期一一〇七円と主張するのに対し、原告は第二期一一五二円、第三期一〇四五円と主張する。

(2) 被告の主張に沿うものとして、乙第三号証において、伊部正は、原告会社と布施観光ではビール一本当りの売上単価を計算するための条件はほとんど同一であるから、布施観光について算定された減差率(簿外ビール一本当りの売上金額の公表ビール一本当りの売上金額に対する割合)を原告会社に適用すれば妥当な金額が算出される旨供述している。乙第四号証によると、被告の右主張が、原告の公表ビール一本当りの売上単価に布施観光の減差率九三パーセントを乗じたものであることが判る。

しかし、伊部の右供述は、具体的な裏付けとなる資料に基づいて条件の類似性をいうものではないうえ、業務内容を同じくする新興観光との対比を念頭に置いて布施観光との類似をいうものでもない。

これに対し、原告の主張が、布施観光の減差率と新興観光の減差率の平均値を適用するものであることは弁論の全趣旨によって明らかであるところ、原告会社の営業内容が新興観光よりも布施観光に類似していることを認めるに足りる証拠はなく、かえって乙第一一号証によると原告会社の営業規模が布施観光と新興観光の中間に位置していると推認されるから、原告の右主張により合理性があるということができる。

(3) そこで、原告の主張に従い売上単価を算定するに、甲第二号証、乙第四号証並びに弁論の全趣旨によると、減差率は布施観光九三パーセント、新興観光八二パーセントとされたこと原告の公表ビール一本当りの売上単価は第二期一三七一円、第三期一一九一円であることが認められるから、簿外ビール一本当りの売上単価は、右の公表の売上単価に減差率の平均値八七・五パーセントを乗じ、第二期一一五二円、第三期一〇四二円とするのが相当である((なお、原告は第三期について一〇四五円と主張するがその計算根拠は明らかでない)。

(六)  簿外売上金額

以上によれば、原告の第二期及び第三期の簿外ビールによる売上金額は、別表七記載の計算に従い、第二期二一九四万五六〇〇円、第三期二一六二万一五〇〇円と認められる。なお、甲第二号証、乙第四号証によると、第三期について簿外ビール以外の簿外売上金額一九一万八三一五円のあったことが認められるから、第三期の簿外売上金額は合計二三五三万九八一五円となる。

3  簿外仕入金額

右に認定した簿外ビールを仕入れるのに要した費用は、乙第二ないし第四号証、第一一号証によると、第二期二五〇万五〇〇〇円、第三期二九七万八六六〇円と認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  簿外経費額

(一)  第三期の旅費交通費について

被告は原告の第三期の簿外経費のうち旅費交通費を二〇万円と主張するのに対し、原告はこれを一八万円と主張するが、これは経費であるから被告の主張の額は原告に利益なものであるうえ、乙第二号証、第四号証によると、旅費交通費は二〇万円と認めることができる。

(二)  ホステス指名料について

(1) 原告は、ホステス指名料第二期分二一七万八〇〇〇円、第三期分一五一万二八六〇円が簿外経費として計上されるべきであると主張する。

(2) しかし、本件では簿外ビールの売上金額を算定するにつき、簿外ビール一本当りの売上単価に簿外ビールの本数を乗じるという方法を採用している(原告もこの方法に従っていることはその主張自体から明らかである)ところ、乙第四号証によると、簿外ビール一本当りの売上単価を確定する前提となる公表ビール一本当りの売上単価を計算する段階でホステス指名料売上金額分を総売上金額から控除し、控除後の金額に基づいて公表分の売上単価を算出していることが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない)から、原告の右主張に従うとホステス指名料を二重に控除することとなるので、右主張は採用することができない。

5  簿外利益金に係る受取利息

(一)  原告の第二期及び第三期の各受取利息算定の対象となる簿外利益金は、前認定の簿外売上金額(第二期二一九四万五六〇〇円、第三期二三五三万九八一五円)から簿外仕入金額(第二期二五〇万五〇〇〇円、第三期二九七万八六六〇円)及び簿外経費合計額(第二期二五三万七〇〇〇円、第三期四三七万二〇〇〇円)を控除し、第二期一六九〇万三六〇〇円、第三期一六一八万九一五五円と認めることができる。

(二)  右簿外利益の額に乙第四号証に示された受取利息計算の算式に従って計算すると、簿外利益金に係る受取利息は、第二期分三一万四七八八円、第三期分一〇八万三七五二円と算出される。

6  第三期の未納事業税額

第三期の未納事業税額は、所得金額の変動に伴い被告主張額よりも減少することになるが、これは確定申告所得金額から減算されるべきもので、被告主張額の方が原告に有利なものであるうえ、本件記録中の資料のみでは正確に計算できないから、被告主張の一八二万〇八八〇円とする。

7  所得金額

以上に基づき原告の第二期及び第三期の所得金額を算定すると、別表六の(1)(2)記載のとおり、第二期二二一〇万八七六七円、第三期二四六九万一五六三円となり、いずれも裁決において認定された所得金額を上回ることが明らかであるから、本件各更正処分に原告主張の違法はなく、適法になされたものということができ、したがって本件各更正処分の所得金額を前提としてなされた本件各決定処分(裁決で一部取消された後のもの)も適法(重加算税を賦課すること自体についての違法事由も認められない)である。

三  よって原告の本訴請求は理由がないからいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 中川博之 裁判官小島正夫は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 志水義文)

別表一

(1)第二期

〈省略〉

(2)第三期

〈省略〉

別表二

(1) 第二期の所得金額

〈省略〉

(2) 第三期の所得金額

〈省略〉

別表三 簿外売上金額の算定根拠

〈省略〉

(注) 別表三の〈5〉欄の外書は、その他(〈3〉×〈4〉以外)の簿外売上金額である。

別表四 松岡商店及びホステスからの簿外ビールの仕入本数

〈省略〉

別表五

(1) 第二期の所得金額

〈省略〉

(2) 第三期の所得金額

〈省略〉

別表六

(1) 第二期の所得金額

〈省略〉

(2) 第三期の所得金額

〈省略〉

別表七 売上金額の算定根拠

〈省略〉

(注) 別表七の〈5〉欄の外書は、その他(〈3〉×〈4〉以外)の簿外売上金額である。

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